つわり(悪阻)と漢方|妊娠初期のつらさを和らげる自然なアプローチ2025.09.01

はじめに
妊娠初期に多くの女性が経験する「つわり(悪阻)」。
吐き気、嘔吐、食欲不振、においへの過敏など、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。
西洋医学では「妊娠初期の一過性の症状」と捉えられ、点滴や制吐剤などで対処することが多いですが、「薬をあまり使いたくない」「自然な方法で少しでも楽になりたい」という方から、漢方が注目されています。
本記事では、つわりの基礎知識と西洋医学的治療、そして漢方ができるサポートについて詳しく解説します。
つわり(悪阻)とは?
発症時期と頻度
つわりは妊娠5〜6週頃から始まり、妊娠12〜16週頃まで続くことが一般的です。妊婦さんの約70〜80%が経験するといわれ、重症化するケースもあります。
主な症状
- 吐き気・嘔吐
- 食欲不振
- においに対する強い敏感さ
- 唾液の増加
- 水分摂取も難しいほどの拒絶感
症状が強く、水も飲めない、体重が減少するなどの状態は「妊娠悪阻(Hyperemesis Gravidarum)」と呼ばれ、入院や点滴が必要になることもあります。
西洋医学的な考え方
つわりの原因ははっきり解明されていませんが、
- hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)ホルモンの急増
- 自律神経の乱れ
- 精神的要因
などが複合的に関与すると考えられています。
漢方から見た「つわり」
漢方では、つわりを「妊娠嘔吐」と呼び、妊娠による気血の変化や胃腸機能の不調が原因とされます。妊娠で子宮が発育し「気」の流れが変わり、胃腸に影響を与えることで吐き気や食欲不振が起こると考えます。
体質や症状の特徴によって、いくつかのパターンに分けられます。
つわりに用いられる代表的な漢方処方
1. 小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)
- 特徴:吐き気・嘔吐が強く、水分も受け付けにくい
- 作用:胃を温めて逆流を防ぎ、吐き気を鎮める
2. 安中散(あんちゅうさん)
- 特徴:胃の冷えによるムカムカ、食後の不快感
- 作用:胃腸を温め、食欲不振を改善
3. 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
- 特徴:喉のつかえ感、精神的緊張や不安が強い場合
- 作用:自律神経を整え、気の巡りを改善
4. 平胃散(へいいさん)
- 特徴:胃のもたれ、食欲がなく消化不良気味
- 作用:胃腸を健やかにし、消化吸収を助ける
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5. 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 特徴:冷えやむくみがあり、体力が弱いタイプ
- 作用:血流を良くし、ホルモンバランスを整える
👉 同じ「つわり」でも体質によって処方が変わるのが漢方の大きな特徴です。
漢方的な養生法でできること
食事の工夫
- 食べられるときに、少しずつ摂取する「分食」
- 冷たいものより温かい食事を心がける
- 生姜、山芋、なつめなど胃を温める食材を取り入れる
水分補給
- 常温の水や麦茶、レモン水など飲みやすいものでこまめに摂取
- 一度に大量ではなく、少しずつ口に含む
生活習慣
- 十分な休養を取る
- 無理に食べなくても、水分がとれていれば心配ない場合も多い
- 精神的ストレスを和らげる工夫(深呼吸、アロマ、軽い散歩)
西洋医学と漢方の併用
重症つわり(妊娠悪阻)の場合は入院や点滴などが必要になるため、必ず医師の診断を受けることが大前提です。
そのうえで「漢方を取り入れる」ことで、薬の副作用を避けつつ、体質改善や精神的な安定をサポートできます。
特に、産婦人科でも「小半夏加茯苓湯」はつわりの代表的な処方として比較的よく使用されています。
まとめ
- つわりは妊娠初期に多くの女性が経験する症状で、原因はホルモン変化や自律神経の乱れなどが関与
- 西洋医学では対症療法が中心だが、漢方は体質やバランスを整えることで改善を目指す
- 小半夏加茯苓湯、半夏厚朴湯、安中散などが代表的処方
- 食養生や生活習慣の工夫も症状緩和に役立つ
- 重症の場合は必ず医師の診断を受け、必要なら西洋医学と併用することが大切
妊娠は喜びの出来事ですが、つわりの辛さで気持ちが不安定になることもあります。そんなとき、漢方をうまく取り入れることで「妊娠初期を少しでも快適に過ごす」手助けになるでしょう。
執筆者
服部 雄志(国際中医師/漢方専門家)
漢方薬に関する豊富な知識と経験を持ち、不妊治療における漢方相談を多数手がける。
経済的な負担や精神的なストレスを抱える方々に寄り添い、希望を与えるサポートを行っている。
妊活・不妊治療に関する情報発信を行うライター。読者に寄り添った記事を心がけている。
著書に『母になるために大切にしたい妊活の習慣』(WAVE出版)がある。
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